こんにちは。
一般社団法人アジアNOVASTストレッチ協会代表の中村です。
最近、「短いストレッチは意味がない」といった主張が一部で話題になっていると耳にします。
ストレッチの効果を最大限に引き出すためには、ある程度の時間が必要なのは事実ですが、それが「とにかく長く伸ばせば良い」という短絡的な考え方に繋がることに、私は強い懸念を抱いています。
なぜなら、健康な方が行うコンディショニング目的のストレッチにおいて、不適切に長い時間の静的ストレッチは、関節の安定性に不可欠な「密生結合組織」にダメージを与え、「クリープ現象」を引き起こし、結果として「関節不安定性」を招く重大なリスクがあるからです。
これは、私たちがNOVASTストレッチの理論構築において最も重要視し、避けなければならないと考えていることの一つです。
私たちの体を支える「密生結合組織」とは?
私たちの関節周りには、骨と骨をつなぐ「靭帯(じんたい)」や、関節を包み込む「関節包(かんせつほう)」といった、非常に強靭な線維性の組織があります。
これらを総称して「密生結合組織」と呼びます。
筋肉が伸び縮みして動きを生み出すのに対し、靭帯や関節包の主な役割は「関節が必要以上に動きすぎないように固定し、安定させる」ことです。
もちろん、ある程度の弾力性はありますが、筋肉のように大きく伸びることは想定されていません。
むしろ、伸びてしまっては関節の安定性が損なわれる、非常に重要な組織なのです。
「クリープ現象」とは何か? なぜ健康な方には危険なのか?
物質に一定の力が長時間加わり続けると、徐々に変形していく現象を「クリープ現象」と呼びます。
身近な例でいえば、ビニール袋の持ち手を指で長時間引っ張り続けると、徐々に伸びてきて、元に戻らなくなるのと同じです。
これをストレッチに当てはめてみましょう。
筋肉(筋線維)は比較的弾力性に富み、伸ばされても元に戻りやすい性質があります。
しかし、関節を安定させる靭帯や関節包といった密生結合組織は、強靭である一方、一度伸びてしまうと元に戻りにくい性質を持っています。
健康な方が、数分間にも及ぶような、強い静的ストレッチを長時間続けるとどうなるでしょうか?
最初は筋肉が伸びている感覚があるかもしれません。
しかし、その状態を維持し続けると、張力は筋肉だけでなく、靭帯や関節包にもかかり続けます。
すると、この密生結合組織に「クリープ現象」が生じ、組織が徐々に引き伸ばされ、塑性変形(元に戻らない変形)を起こしてしまうリスクが高まります。
クリープ現象が招く「関節不安定性」とその弊害
靭帯や関節包がクリープ現象によって伸びてしまうと、関節を適切に安定させる能力が低下します。
これが「関節不安定性」です。
関節が不安定になると、以下のような様々な問題を引き起こす可能性があります。
- 怪我のリスク増大: 関節がグラグラになり、捻挫や脱臼などの怪我をしやすくなります。
- 代償的な筋緊張: 不安定な関節を支えようと、周りの筋肉が過剰に緊張し、硬くなります。これが慢性的な肩こりや腰痛の原因となることも少なくありません。
- パフォーマンス低下: 関節が安定しないと、力を効率的に伝えることができず、スポーツなどのパフォーマンスが低下します。
- 将来的な関節変形の助長: 長期的な不安定性は、関節軟骨への負担を増やし、変形性関節症などのリスクを高める可能性も指摘されています。
長時間ストレッチが「必要な」場合とは?
では、どのような場合に長い時間のストレッチが必要となるのでしょうか?
それは、脳梗塞や脊髄損傷、脳性麻痺、パーキンソン病などを患い、医学的に筋肉の異常な緊張(痙縮や固縮)が亢進してしまった筋肉に対してです。
これらの疾患によって過緊張状態となった筋肉の長さを維持・改善し、関節の拘縮を予防・改善する目的で、リハビリテーションの一環として、より長い時間の持続的なストレッチ(低強度長時間伸張など)が必要となることがあります。
しかし、これはあくまで特定の疾患に対する治療的なアプローチであり、医師や療法士の指導のもとで行われるべきものです。
健康な方がコンディショニング目的で行うストレッチとは、その目的も方法論も全く異なるということを、明確に理解する必要があります。
健康な方へ:NOVASTが提唱するストレッチの考え方
健康な方が、日々のコンディショニングや健康維持を目的とする場合、話は全く別です。
柔軟性”だけ”を過度に追い求めるのではなく、「安定性」と「可動性」が両立した機能的な体を目指すべきです。
そこで、私たち一般社団法人アジアNOVASTストレッチ協会が、健康寿命の延伸を目指すストレッチ技術のコンセプトとして提唱するのは、非常にシンプルです。
「反動をつけず、ゆっくりと、”心地よい伸び感”が得られる範囲で、20秒程度保持する」
これだけです。
この「20秒程度」という時間は、筋肉の伸張反射(急に伸ばされると逆に縮もうとする反応)を誘発せず、かつ筋線維の短縮をリセットし、柔軟性を改善するのに十分な時間であると考えています。
そして何より、靭帯や関節包といった密生結合組織にクリープ現象を引き起こすリスクを最小限に抑え、関節の安定性を損なうことなく、安全かつ効果的に筋肉の柔軟性を高めることができるのです。
まとめ:あなたのストレッチは大丈夫?
ストレッチは、正しく行えば多くの恩恵をもたらす素晴らしいメソッドです。
しかし、「短いストレッチは意味がない」という言葉尻だけを捉え、「長く伸ばせば伸ばすほど良い」と誤解してしまうと、良かれと思ってやったことが、逆に関節の不安定性を招き、体を傷つけることにもなりかねません。
特に健康な方が行うコンディショニングにおいては、「長時間、強い力で静的に伸ばし続ける」ストレッチは避けるべきです。
医学的な必要性がない限り、心地よい範囲で20秒程度のストレッチで十分効果がある、ということをぜひ覚えておいてください。
皆さんの大切な体を守り、真に健康的な体を手に入れるために、そして健康寿命を延伸するために、「量より質」を重視した、安全で効果的なストレッチを実践してくださいね。
もし、ストレッチの方法に疑問や不安がある場合は、ぜひ当協会にご相談ください。
皆さんの健康と豊かな生活を、安全で効果的なストレッチを通じてサポートしていくこと。
それが私たちアジアNOVASTストレッチ協会の使命です。